2013年9月9日月曜日

「紅の豚」の謎その3__豚が人間になるとき__「人生は生きるに値する」

 宮崎駿は引退宣言にあたって「人生は生きるに値する」と言ったそうだ。

 
 「生きるに値する」_____含蓄の深いことばだ。真意はどこにある?

 「紅の豚」の半ば近く、ポルコとともに野宿したフィオが彼の人間の顔を垣間見てしまう場面がある。ポルコが薬莢を点検しているときに見えた横顔は人間のものだった。

 その後、ポルコはフィオに戦争の体験を語る。壮絶な空中戦で敵味方ともに彼以外がみな死んでいったときのことを。多くの戦闘機が上へ上へと昇って行き、美しい銀河の帯の中に入って行った。いや銀河そのものが昇天した戦闘機の群れなのだ。そしてポルコは気がつけば一人で海上すれすれを漂っていた。

 この話を聞いたフィオは言う。「神様がまだ来るな、って言ったのね」。それに対してポルコはこう答える。「俺には、そうして一人で飛んでろ、って言われた気がしたがね」。すると、フィオはこう叫ぶのだ。「そんなはずはないわ!ポルコはいい人だもの!」

 
 
 最後のフィオの反応は、自然な流れの中で発せられた言葉のようだが、どこかひっかかるものがある。「そうして一人で飛んでいる」ことは「いい人のやることではない!」とフィオは言っているのだ。なぜ?賞金稼ぎだから?それとも?

 ラストもう一度ポルコは人間の顔を今度はカーチスに見せる。イタリア空軍を空賊の逃げた方向と別の方向へ誘導しようと誘いかけたときだ。薬莢を点検している時と戦闘行為の意志を示した時、ポルコは人間の顔に戻る。

 エンディング、加藤登紀子の歌声が流れる。画面左側に白黒のデッサンが次々に現れる。多くは戦闘機が描かれている。大空を飛ぶ戦闘機もあれば、墜落して木にかかった戦闘機、戦闘機の前に立つ豚人間、戦闘機の描かれていない絵もある。人間の兵隊が多数入り乱れて戦う白兵戦、捕虜になった兵隊たち、塹壕を築く市民、そう、これらはフィオの言う「その後何回も起こった戦争」の現実なのだ。

 「人生は生きるに値する」_____含蓄の深いことばである。

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