2012年3月26日月曜日

『ナイン・ストーリーズ』という挑戦____片手の鳴る音はいかに

ただいまさびついた英語力でサリンジャーの作品の原文講読中です。日暮れて、道遠し。いつになったら読み終わるのでしょう。でも、原文を読んでいると、日本語訳ではわからなかったことが、あっさりわかってしまうことが多いので、時間はかかっても、とにかく、手に入るものはすべて、原文で読もうと思っています。いまの段階であまり書くこともないのですが、『ナイン・ストーリーズ』について、すでにだいぶ書いたので、それを補筆、訂正というより、もう一段の読み込みをしなければならない、ということだけを改めて確認しておきたいと思います。

 『ナイン・ストーリーズ』の冒頭は
「両手の鳴る音は知る。片手の鳴る音は以下に__禅の公案__」
という文章が掲げられている。これも、念のために原文を(ちょっと煩わしいのだが)確かめてみよう。
We know the sound of two hands clapping.
But what is the sound of one hand clapping?
                      ___A ZEN KOAN

 ほとんど直訳、といってよいかと思うのだけれど、それでもやはり微妙に違うのである。日本語では、「両手の鳴る音」であって、「音」は自然に「鳴る」こともあり得る。だが、サリンジャーはthe sound of two hands clapping と書いている。「二本の手で拍手して」鳴る音、なのである。そして、次にone hand clapping「一本の手で拍手したら」どんな音になるか、と聞いているのだ。いうまでもなく拍手は二本の手でするものだ。一本の手ではできない。それを敢えて聞いているのは、まぎれもなく私たち読者へ挑戦状をつきつけているのだ。『ナイン・ストーリーズ』という「一本の手」で、あなたたちはどんな音を鳴らすのか、と。

 私も一所懸命に「一本の手」で音を鳴らそうとしてきた。だが、音はやはり鳴らなかったのだ。もう「一本の手」がどうしても必要なのだ。もう「一本の手」__『ライ麦畑でつかまえて』という手が。そう、この二冊の本はお互いがお互いを映しあう鏡であり、合わせて音を鳴らす「手」なのである。そして、これらの小説群はどれも、戦車も大砲も登場しないが硝煙のにおいのたちこめる「戦争小説」なのだ。  

 今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。

4 件のコメント:

  1. 二本の手、といふのは、自分と誰かの手のことのやうに思います。
    また、禅の公案ですから、謎かけです。「ナイン・ストーリーズ」はただ読むものではなく、考えるものだ、といふ意味にも思われます。
    読者に考えさせようとしている気がします。

    邦訳されたサリンジャーの作品はすべて読みました。どれも好きですが、残念ながら「ライ麦畑のキャッチャー」はあまり好きではありません。

    すみません。お邪魔しました。

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    1. お便りありがとうございます。私も『ナイン・ストーリーズ』をはじめとするサリンジャーの作品はただ「読む」だけでなく、考えさせるものだと思っています。知力だけでなく体力勝負の大仕事かもしれません。

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  2. こんにちは
    初めに
    何故
    このnaoko-notoに辿り着いたかを
    お話したいと思います。
    昨日の土曜日は雨
    学園祭はその中でも多くの関係者で盛況でした
    今日
    日曜日
    天気は回復して昼ごろには太陽が晩秋の山々に光の贈り物を届ける
    私は
    卒業論文に取り組中
    『白隠禅師の絵画芸術に見る禅的世界の考察とミメーシス論』?
    こんなタイトル
    変な感じかな
    無理かな
    どんな風に書きすすめればいいのかな
    色々
    調べを進めるうちに
    白隠禅画からジョンレノン
    ジョンから鈴木大拙
    大拙からサリンジャー
    サリンジャーから隻手の音声

    一昨日
    先輩と
    サリンジャーの話をしていて
    思いがけづ
    今日
    サリンジャーの『ナインストーリーズ』を目にする
    その中の隻手の音声は
    今の私にとっては
    大問題
    実は
    この十月まで
    臨済宗の寺
    僧堂に
    雲水僧として修行に入っていて
    殆ど毎日
    摂心期間には日に三度
    老師に参禅して禅問答を行っていました
    私はまだまだ新米な者で
    初めての公案が
    『隻手の音声』
    です
    まだまだ先は長く
    公案をクリアー出来るのはいつになる事やら

    随分
    以前に読んだサリンジャー
    出掛ける時には手放さなかった『ナインストーリーズ』
    今は本箱の片隅に追いやられている
    不覚にも
    冒頭の
    隻手の音声に気付いていなかった

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    1. お便りありがとうございます。雲水僧として修行されたとか、すばらしいですね。頭だけでなく体でつかみ取るのが本物の禅なのでしょうね。私はまったくの門外漢ですが。
      卒業論文のタイトルも興味深くて、機会があったら拝見したいです。
      本箱の片隅のサリンジャーもぜひもう一度読んでみてください。

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