表題は『ナイン・ストーリーズ』第三作である。これは難解です。作中にすんなり感情移入できる人物がなかなか見つからない、ということが、テーマを分かりにくくしている原因のひとつかもしれない.
十五歳の少女ジニーはクラスメートのセリーヌと毎土曜日の午前中テニスをしている。いつも自分が全額負担してる帰りのタクシー代を彼女にも払わせようと、彼女の自宅までついて行く。肺炎で寝ているという母親のもとにいったん引き下がったセリーヌの代わりに、兄のフランクリンがジニーの前に現れる。彼は「屑籠に手をつっこんで」指を怪我している。フランクリンは「骨のとこまでぐさっと」切って、「出血多量で死にそうなんだ」というわりには、ジニーと話しこんでいる。どうやらフランクリンは、かつてジニーの姉とつきあっていて、ふられたらしい。姉は海軍少佐の男と婚約しているのだ。さえない容貌で体も弱いらしいフランクリンは八遍も手紙を書いて一度も返事がもらえなかったと言う。戦争中オハイオの飛行機工場で働いていたというフランクリンは、窓の下を通る人々を「あの阿呆ども」と呼ぶ。今度はエスキモーと戦争するので、「六十ぐらいの奴」がみんな戦争に行くのだと言う。彼は昨夜デリカテッセンで買ったというサンドイッチの残り半分を持ってきて、ジニーにすすめる。ジニーがようやく一口飲みこんだところで「ベルが鳴っ」て、フランクリンは姿を消す。
フランクリンと入れ替わって部屋に入ってきたのはエリックとフランクリンが呼んだ男で、フランクリンとは正反対の非のうちどころない容姿である。彼は初対面のジニーに、いきなり「善きサマリア人」をやろうとした自分が裏切られたという話を始める。餓死寸前の「作家だか何だか知らない」男を引き取って面倒をみていたが、その男が「手の届くかぎりのもの」をもちだして出て行ってしまったというのだ。話し終えて、ジニーのコートに目をとめたエリックは、彼女の名前をたずねるが、ジニーは教えない。エリックは、今上映されているコクトーの『美女と野獣』は素晴らしい映画で、もう八遍見たが、いまからフランクリン、セリーヌと一緒に見に行くのだという。
セリーヌがドレスに着替えて部屋に入ってきたのを見たジニーはエリックがまだ喋っているのをさえぎって、彼女のところに行き、タクシー代はもう要らない、と言う。そして、晩御飯の後で電話して、遊びに来るかもしれない、と言って、セリーヌを驚かせる。ジニーは、帰りのバス亭まで歩く途中で食べ残しのサンドイッチを捨てようとして、やはり捨てずにポケットにしまいこんだ。
この小説の隠されたプロットは二つある。「善きサマリア人」と「美女と野獣」である。
今日はパソコンの調子が悪く、下書きが消えてしまうトラブルが続くので、続きはまた明日にします。
途中までよんでくださってありがとうございました。
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